判例 <顧客の請求が84万6205円認められた事案>

金融デリバティブに関して、判例をご紹介します。

当事者等

顧客

(1)経歴 

商品を購入した当時,80歳の女性で,夫とは既に死別していました。外で働いた経験はありませんでした。商品を購入した当時,夫が遺した自宅において,息子夫婦と孫2人と一緒に生活していました。

(2)資産

運用資金としては,定期預金合計1260万円と貸付信託30万円がありました。いずれも,今回の商品を購入した信託銀行に対するものです。その他普通預金が約170万円あり,収入は年額150万円の年金のみでした。

(3)取引経験

上記の貸付信託程度でした。

証券会社

中央三井信託銀行

購入商品

日経平均株価の動向によって,購入者の得られる利益が変動する投資信託

顧客は,投資信託の購入を勧誘した信託銀行の担当者の勧誘方法が適合性原則や説明義務に違反する違法なものであったと主張して,被った損失及び弁護士費用の合計428万8680円の支払いを求めて提訴しました。

商品購入の取引経緯

勧誘の経緯

顧客は信託銀行に対し定期預金等を預けていたので,平成18年6,7月ころ,担当者が挨拶のため顧客の自宅を訪問しました。

購入の経緯

上記自宅訪問の際,顧客が担当者に対し定期預金の利率が低いと述べたので,担当者は,日を改めて顧客の自宅を訪問し,「プレミアム・ステージ」という「ノックイン型投資信託」を紹介しました。
顧客は,担当者の説明を聞いて,担当者に対し,定期預金等を解約して,上記商品を購入したいという希望を伝えました。
その後,同年7月末から8月末にかけて,顧客は上記商品を合940万9817円分購入しました。
上記商品は,日経平均株価の動向によって,購入者の得られる利益が変動する投資信託でした。平成18年7月以降,日経平均株価が上昇したため,顧客は,平成19年8月までに,購入額に比べて45万5520円多い償還金を得ることができました。
顧客は,この償還金を原資の一部として,再び同じ商品を合計1090万円分購入しました。

損害

顧客が商品を購入して以降、日経平均株価が下落したため,顧客は,購入額に満たない償還金及び利息しか受け取れず,384万6390円の損失を被りました。

裁判所の判断① 適合性原則違反

裁判所は,担当者が顧客に対しこの商品の購入を勧誘したことは,適合性原則に反する違法なものであったと判断しました。  
裁判所は,判断の理由として,
(1)商品が高リスクな商品であったこと
(2)原告がそのような高いリスクがあることを十分理解して商品を購入したとはいえない
ことを挙げています。

(1)商品が高リスクであること

裁判所は,

  • 3年間の間に日経平均株価が予め決められた数値(購入当初の株価の約70%)を一度でも下回る(「ノックイン」といいます)と,購入当初の株価と3年後の株価の下落率に応じて,購入者に損失が発生すること
  • 反対に,日経平均株価が上昇したとしても,購入者の得られる利益は限られている(購入額10,000円に対し50円)こと
  • これまでも,日経平均株価が30%以上下落することは,頻繁に起こり得たこと
  • 途中で解約した場合は元本が保証されないこと
を理由に,この商品が顧客の立場から見て,相当高リスクの商品であり,販売するに当たっては顧客の経歴や資産状況などがそれに見合うか慎重に判断しなければならないとしました。

(2)顧客の理解能力の欠如

裁判所は,顧客について、

  • 専ら専業主婦として生活してきたこと
  • 投資経験は,元本保証がある定期預金等のみであること
  • 商品購入当時80歳と高齢であること
  • ほぼ唯一の金融資産である定期預金・貸付信託の全額を解約して商品購入に充てていることからすれば,元本を相当に割り込む可能性を覚悟してまで利益を得ようという意図があったとはいえないこと

を理由に,顧客の知識能力等に照らせば,自らの責任で投資するか否かの判断が可能であるといえる程度まで商品の高いリスクを認識していたとはいえないと判断しました。

裁判所の判断② 過失相殺

もっとも,裁判所は,商品を購入したことについて,顧客にも相当大きな過失があった(8割)として,損害額のうち2割のみの賠償を認めています。裁判所は,その理由として、

  • 顧客が担当者から口頭で及び資料を示しながら,商品の説明を受けていたこと
  • 同居する家族に相談する機会も十分あったこと
  • 最初に購入した商品により利益を得たので,更なる利益を求めて購入に踏み切ったこと
 を挙げています。

本件商品の概要

信託期間 平成19年7月31日~平成22年7月23日 
手数料 2.1%
投資対象 日経平均株価の値動きによって償還条件が決定される仕組みのJ.P.モルガン・インターナショナル・デリバティブズ・リミテッドが発行するユーロ円債等 
償還条件及び償還額 ① 毎年2回の株価判定日における日経平均株価の終値が,スタート株価(平成19年7月31日~平成19年8月6日までの5営業日の日経平均株価の終値の平均値)以上である場合
   ⇒直後の決算時に早期償還するものとし,この場合においては,原則として1万口あたり元本確保(1万円)及び当該決算時の目標分配額(第2期(1年目)は330円程度,第3期(2年目)以降は50円程度)を加算した額とする。

② 早期償還せず,かつ平成19年8月10日~平成22年6月30日(「株価観察期間」)の日経平均株価の終値が,スタート株価に対し一度も30%以上下落(「ノックイン」)しなかった場合
   ⇒約3年後の償還時に,原則として1万口あたり1万0050円程度で償還する。

③早期償還せず,かつ株価観察期間中の日経平均株価の終値がスタート株価に対し一度でも30%以上下落した場合
   ⇒ 約3年後の償還時に,原則として1万口あたり,エンド株価(平成22年6月30日の日経平均株価の終値)のスタート株価比(ただし100%を上限とする)に1万円を乗じて得た額に50円程度を加算した額とする。
 

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